第9号
特集:
No Lime, No Life──石灰岩のない人生なんて No Lime, No Life — Living with Limestone 没有生命,就没有生活:没有石灰石的生命
石灰岩と地球の記録──石灰岩の地質学
狩野彰宏【東京大学大学院理学系研究科(理学部)教授】
Limestone and Earth’s Records: Geology of LimestoneAkihiro Kano【Professor, Graduate School of Science (Faculty of Science), University of Tokyo】
石灰岩与地球记录:石灰岩地质学
Limestone is a type of rock primarily composed of calcium carbonate, which is formed from calcium ions and carbon dioxide. Unlike other rock types, limestone mostly originates from precipitates in seawater or the skeletons of marine organisms. This characteristic means that limestone preserves records of the seawater and marine life. Therefore, limestone serves as an important material for unraveling Earth’s history and the evolution of life. In Precambrian times, when life was still primitive, traces of microorganisms called stromatolites are preserved in some limestones dated back to 3.5 billion years ago. Entering the Phanerozoic eon, evolved animals and plants began to form calcium carbonate shells and skeletons, and limestone became largely composed of biogenic material. In shallow reef environments, corals, calcareous algae, and sponges contribute to limestone formation, while in pelagic (open ocean) environments, foraminifera and coccolithophores are the main contributors. Since the 1950s, when it was discovered that limestone can be a reservoir rock for crude oil, limestone has been subjected to geological, sedimentological, and geochemical studies. By the 1970s, frameworks for the classification, petrology, sedimentation processes, and isotope geochemistry of limestone had been established, leading to a surge in fundamental scientific research on limestone. With the advanced techniques of trace element and isotope analyses, research using limestone to reconstruct paleoenvironmental and paleoclimatic conditions has progressed. Alkaline earth metals such as magnesium and strontium are suitable proxies of water temperature. The oxygen isotope ratio records changes in both seawater temperature and the isotopic composition of seawater, helping to reveal the causes of periodic glacial–interglacial cycles. The carbon isotope ratio captures changes in the carbon cycle and CO₂ concentrations. These proxies have also proven useful in reconstructing major events in Earth’s history. In recent years, limestone has also been utilized in engineering fields, particularly in the development of CO₂ reduction technologies.
[2026.2.28 UPDATE]
1. 新潟県糸魚川市のケース
新潟県糸魚川市の海岸には親不知・子不知(おやしらず・こしらず)という絶壁の景勝地がある。この険しい絶壁を越える際には、子は親を、親は子を顧みる余裕がなかったことで付けられた名称である。絶壁を構成する地質は火山岩を主体とするが、親不知の海岸から4kmほど南にある標高1,221mの黒姫山は全体が石灰岩である。これは石炭紀後期〜ペルム紀中期[fig.1]に太平洋の海山上に堆積したもので、ペルム紀後期に日本列島に付加されたものとされる★1。同じ条件の海山は現在の南北大東島やハワイ群島に見られる。これらサンゴ礁を育む太平洋の海山は長い年月にわたる海洋プレートの沈み込みにより、将来は大陸へと付加される運命にある。
fig.1──地質時代とその年代
筆者作成
2. 石灰岩と地球史
石灰岩はカルシウムイオンと二酸化炭素の2つが結びついて作られる炭酸カルシウム (CaCO3) を主体とする岩石である。定義的には、炭酸カルシウム鉱物であるカルサイトとアラゴナイトの重量比が50%以上のものを指す。石灰岩が溶解するか沈澱するかは、水のカルシウムイオンと二酸化炭素成分の濃度により決まる。現在の海水では、カルシウムはナトリウムとマグネシウムに次ぐ3番目に多い陽イオンであり、大気の約60倍の二酸化炭素が(主に炭酸水素イオンという陰イオンで)含まれている。カルシウムイオンと炭酸水素イオンは地球史を通じて海水に豊富に溶けており、太古から海水は炭酸カルシウムに対して飽和した状態を保ってきた。大部分の石灰岩は海水からの沈殿物もしくは海水に棲む生物の殻からできる。これは火山活動、変成活動、土砂の堆積によってできる他の岩石とは違う特徴である。海水からできるという特徴を持つ石灰岩には当時の海水と生物の記録が残されている。石灰岩は地球の歴史を紐解く重要な題材である。 地球史の前半、生命が十分に進化していない頃の石灰岩の中には微生物の痕跡が残される。細かく平行な縞模様を持つストロマトライトは35億年前から存在し★3、光合成細菌が作った石灰岩である[fig.2A]。浅い海底に集合体として繁殖する光合成細菌はその代謝活動により炭酸カルシウムの沈澱を活性化させる役割を持つ。ストロマトライトは最古の生命の痕跡であり、その後の20億年間にわたり大繁栄する。また、ストロマトライトを作るとされるシアノバクテリアは、大量の酸素を発生し、それにより約24億年前に大気と海洋の酸素濃度が一気に高くなった。これは大酸素化イベント[fig.1]とよばれる地球史の重要な事件であり、酸素を利用する代謝様式をとる真核生物の進化につながったとされる★4。ここから人類につながる動物進化の長い道のりが始まる。ストロマトライトはその後18億年間にわたり大繁栄するが、地球はその途中で厳しい寒冷化を経験する。7.2億年前と6.4億年前の2回に地球の表面が凍りついた全球凍結事変[fig.1]であり、それぞれスターチアン氷期、マリノアン氷期と呼ばれる★5。厳しい氷河期が終わった時、海水の過飽和度が一気に上がり、厚いキャップカーボネートと呼ばれる炭酸塩堆積物ができた。この地層はほぼ地球全体にわたって分布し、氷の融解が広域的かつ急激に起こったことを示している★6。不思議なことに、2回の全球凍結の後には動物が多細胞化したり、多様度が大きく増大することになる。また、酸素濃度も一段と高くなり、多細胞動物は運動能力を持つようになる。全球凍結という事件がなかったとしたら、人類まで繋がる動物の進化は起こらなかったかもしれない。一方、酸素濃度の増加に貢献したストロマトライトは5.3億年前になると急激に減衰する★7。現在、ストロマトライトが発達する海域は西大西洋のバハマバンクや西オーストラリアのハメリンプールなど限られる[fig.2B]。
fig.2──ストロマトライト
A)西オーストラリア州ピルバラ地方に見られる約35億年前のストロマトライト
B)西オーストラリア州ハメリンプールに見られる現世のストロマトライト
筆者撮影
3. 石灰岩の研究
中東やメキシコ湾に発達する油田の多くが石灰岩に発達する。浅海で堆積した多孔質の石灰岩が蒸発岩に覆われると原油を貯留することがわかったのは1950年代のことである。それ以降、石灰岩に関連する地質学、堆積学、地球化学が大きく進展した。石油探査では地下の地質構造が復元され、石灰岩ができるための環境条件が理解されるようになる。貯留岩としての能力を決める空隙率と透水率に関わる続成作用、特に方解石が苦灰石に転移するドロマイト化については精力的に研究された。1970年代までには、石灰岩の分類、岩石学、堆積作用、同位体化学についての枠組みは理解され、油田探査に応用されるとともに、純科学としての石灰岩研究も欧米諸国で盛んに行われるようになった。顕微鏡で観察できる化石粒子も生物進化や堆積プロセスを理解するための重要な情報源である。石灰岩の薄片を地道に観察した結果が集積され、膨大なモノグラフも出版された★8。石灰岩は過去の環境条件を復元するための格好の題材であることが広く認知されることになる。1980年代に入ると、日本でも石灰岩研究が盛んになる。秋吉台における研究は日本列島に点在する古生代後期の石灰岩が海山で堆積したサンゴ礁であったことを示した★9。また、琉球列島の伊良部島では更新世の石灰岩が掘削され、その堆積プロセスと続成作用についての多くの知見が示された★10。 2000年代以降は炭素循環と古環境を理解するための研究が盛んに行われるようになった。海水のpH条件(約8)では、炭酸カルシウムの沈澱は二酸化炭素を発生する反応であり、二酸化炭素を吸収する光合成とリンクしている。後述するように、光合成量すなわち生物生産性は石灰岩の炭素同位体比に反映されるので、炭素同位体比を用いた顕生代の二酸化炭素濃度変化を復元するモデルが提示されている★11。大気の二酸化炭素濃度はカンブリア紀以降次第に低下し、石炭紀後期〜ペルム紀にかけて現在と同じレベルまで低くなった。この時期には、超大陸パンゲアの南部において大規模な氷床が発達したとされる。二酸化炭素濃度は中生代に入ると増加し、ジュラ紀〜白亜紀には高いレベルにあった。その後、新生代に入ると段階的に二酸化炭素濃度は低下し、約2万年前の最終氷期には200ppm以下になった★12。その後、産業革命など人間活動により二酸化炭素濃度は400 ppm以上になり、今後も増加すると予想されている。 地球温暖化の対策として、二酸化炭素の濃度を下げるための取り組みにも石灰岩と炭素循環の仕組みが生かされつつある。二酸化炭素を高圧条件の地中に貯留するCCS (Carbon dioxide Capture and Storage) の対象として、石灰岩の油層が注目されつつある。ここでは、二酸化炭素は炭酸カルシウムと反応して消費されるという利点もある。近年では、玄武岩と二酸化炭素を反応させて、生成した炭酸カルシウムに二酸化炭素を固定するという取り組みも行われている。これは反応速度が遅いという難点があるが、二酸化炭素が漏れ出すことなく固定できるという特徴もある★13。4. 古環境と古気候の復元
石灰岩から堆積時の地球環境、例えば海水温、海水組成や生物生産性などの環境要因を定量的復元する際には、炭酸カルシウムの微量元素や同位体成分が用いられる。環境復元に有用な成分はプロキシと呼ばれ、多くの実験的研究によりその性質が明らかにされてきた。ここでは、いくつかの例を説明する。 炭酸カルシウムにはマグネシウム、ストロンチウム、バリウムといったアルカリ土類金属がカルシウムを置き換える形で微量に含まれている。炭酸カルシウム中のこれらの金属元素濃度は、海水に含まれる濃度と、沈澱時の温度により決まる。海水中の金属元素濃度は数100万年以上の長期間で見ると大きく変動するが、数100年程度の短期間では一定であると考えられるので、沈澱時の水温の指標になる。これを利用し、年輪を有するサンゴや二枚貝の骨格を用いて、高解像度の水温復元がなされている。 鉄やマンガンは酸素が豊富にある環境では酸化物として沈澱してしまうので、水にはイオンとして溶存しにくい。しかし、酸素に乏しい太古の地球や、水が澱んでいる湖では豊富に溶存し、炭酸カルシウム中に取り込まれる。酸素が乏しかった時代には、炭酸カルシウムの替わりに、鉄がつくるシデライトとマンガンがつくるロードクロサイトが海水から沈澱する。希土類元素であるセシウムも同様の挙動を示すので、その濃度は酸化還元条件を示すプロキシになる。 炭酸カルシウムに含まれる酸素と炭素の同位体比もよく用いられるプロキシである。同位体とは、陽子数が同じであるが、中性子数が異なる原子である。質量数が違う同位体は、化学的性質は同じだが、化学反応に対する反応速度が異なる。そのため、何からの化学反応が起こると、同位体分別という現象により、反応生成物の同位体組成に環境条件が反映されることになる。酸素の同位体は質量数16、17、18の3種類のうち、質量数16と18の比が用いられる。石灰岩の主要成分、すなわち海水から沈澱する炭酸カルシウムの酸素同位体比は、海水の酸素同位体比を反映するとともに水温と逆相関する[fig.3]。海水の酸素同位体比は数100年程度の短期間には大きく変動しない。この場合、アルカリ土類金属元素のケースと同様に、炭酸カルシウムの酸素同位体比は水温のプロキシになる。しかし、数100万年オーダーの長期間で見ると、海水の酸素同位体比は変動する。それが最もよく表れているのは、深海で採集されたボーリングコア堆積物中の有孔虫化石であった。有孔虫の酸素同位体比は10万年あるいは4万年の周期で変動することが示され、それが地球の軌道要素の計算により求められた北半球の放射強制力(太陽光の強さ)と極めて良い相関があることがわかった。酸素同位体比と放射強制力は全球的な氷床体積の変化、つまり氷期/間氷期のサイクルにより結び付けられた。氷床の酸素同位体比は海水に比べて明確に低い酸素同位体比を持つ。そのため、氷床体積が大きい氷河期には海水の酸素同位体比が高くなり、氷床体積が小さい間氷期には低くなるという仕組みである★14。この氷期/間氷期のサイクルは軌道要素の重要性を初めて指摘した科学者の名にちなんでミランコビッチサイクルと呼ばれ、1990年代以降の海洋地質学に多大な影響を与えるとともに、炭酸カルシウムの酸素同位体比の重要性を広く知らしめた[fig.4]。
fig.3──プロキシとしての酸素同位体比。炭酸塩鉱物の酸素同位体比は水温と水の同位体比によって決まる。

fig.4──過去300万年間の有効虫同位体比の変動。Raymo (1992)☆1を一部修正。約4万年と10万年の周期が認められ、それぞれ公転軌道の離心率と地軸の傾斜の周期に対応する。全てのピークに番号が付けられ、奇数は間氷期、偶数は氷期に対応する。
☆1──Raymo, M. E. (1992). Global climate change: A three million year perspective. In Kukla, G. and Went, E. (eds.) Start of a Glacial, pp. 207-223, Springer Berlin Heidelberg.
5. おわりに
石灰岩は地球史を紐解くための優れた題材である。また、サンゴ、二枚貝、鍾乳石などは更新世〜完新世の気候条件を高い解像度で復元するためのアーカイブになる。地球史に起こった大酸素化、全球凍結、大量絶滅などの重要なイベントは石灰岩の中に記録される。地球の歴史の中には、現在よりも暖かかったとされる時代が何度もあった。白亜紀や中期完新世などがそれにあたる。これら温暖期の気候条件の復元結果は今後の地球温暖化での気候変動予測につながる研究になる。また、石灰岩についての基礎知識は地球温暖化の主因である二酸化炭素濃度の増加を緩和する試みにも応用されている。これからも石灰岩は地質学の題材として、新しい知見が明らかにされるものと期待できる。 注 ★1──Nakazawa, T., 2001, Carboniferous reef succession of the Panthalassan open-ocean setting: Example from Omi Limestone, central Japan. Facies, 44, 183–210. ★2──山本和幸・井龍康文・佐藤時幸・阿部栄一「沖縄本島本部半島北部に分布する琉球層群の層序」(『地質学雑誌』111(9)、2005、527〜546頁) ★3──Allwood, A. C., Walter, M. R., Kamber, B. S., Marshall, C. P., & Burch, I. W. (2006). Stromatolite reef from the Early Archaean era of Australia. Nature, 441(7094), 714–718. ★4──Holland, H. D. (2006). The oxygenation of the atmosphere and oceans. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 361(1470), 903–915. ★5──Hoffman, P. F., Abbot, D. S., Ashkenazy, Y., Benn, D. I., Brocks, J. J., Cohen, P. A., ... & Warren, S. G. (2017). Snowball Earth climate dynamics and Cryogenian geology-geobiology. Science Advances, 3(11), e1600983. ★6──Hoffman, P. F., Kaufman, A. J., Halverson, G. P., & Schrag, D. P. (1998). A Neoproterozoic snowball earth. Science, 281(5381), 1342–1346. ★7──Riding, R. (2000). Microbial carbonates: the geological record of calcified bacterial–algal mats and biofilms. Sedimentology, 47, 179–214. ★8──Flügel, E. (2004). Microfacies of Carbonate Rocks: Analysis, Interpretation and Application. Berlin: Springer. ★9──Sano, H., & Kanmera, K. (1988). Paleogeographic reconstruction of accreted oceanic rocks, Akiyoshi, southwest Japan. Geology, 16(7), 600–603. ★10──Sagawa, N., Nakamori, T., & Iryu, Y. (2001). Pleistocene reef development in the southwest Ryukyu Islands, Japan. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 175(1–4), 303–323. ★11──Berner, R. A. (1990). Atmospheric carbon dioxide levels over Phanerozoic time. Science, 249(4975), 1382–1386. ★12──Ahn, J., & Brook, E. J. (2008). Atmospheric CO2 and climate on millennial time scales during the last glacial period. science, 322(5898), 83–85. ★13──Gislason, S. R., Wolff-Boenisch, D., Stefansson, A., Oelkers, E. H., Gunnlaugsson, E., Sigurdardottir, H., ... & Fridriksson, T. (2010). Mineral sequestration of carbon dioxide in basalt: A pre-injection overview of the CarbFix project. International Journal of Greenhouse Gas Control, 4(3), 537–545. ★14──Berger, A. (1988). Milankovitch theory and climate. Reviews of Geophysics, 26(4), 624–657. ★15──Saunders, A., & Reichow, M. (2009). The Siberian Traps and the End-Permian mass extinction: a critical review. Chinese Science Bulletin, 54(1), 20–37. ★16──Sone, T., Kano, A., Okumura, T., Kashiwagi, K., Hori, M., Jiang, X., & Shen, C. C. (2013). Holocene stalagmite oxygen isotopic record from the Japan Sea side of the Japanese Islands, as a new proxy of the East Asian winter monsoon. Quaternary Science Reviews, 75, 150–160. ★17──Murata, A., Mori, T., Kato, H., Hu, H. M., Shen, C. C., Senda, R., ... & Kano, A. (2025). Holocene Temperature Trend Inferred From Oxygen and Carbonate Clumped Isotope Profiles of a Stalagmite Collected From a Maritime Area of Central Honshu, Japan. Island Arc, 34(1), e70002. かの・あきひろ 1960年生まれ。東京大学大学院理学系研究科教授。専門は地質学および堆積学。ストックホルム大学で博士号を取得後、広島大学および九州大学で勤務後、2016年より現職。主な著書=狩野彰宏+柏木健司『図版 日本の洞窟』(朝倉書店、2025)。- 【近日公開予定】藤森照信インタビュー:石灰岩による世界構築の歴史とその特徴
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協賛/SUPPORT サントリー文化財団(2020年度)、一般財団法人窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE(2019〜2021年度)、公益財団法人ユニオン造形財団(2022年度〜)
石灰石鉱業協会(第9号)


