生環境構築史

第9号  特集:
No Lime, No Life──石灰岩のない人生なんて No Lime, No Life — Living with Limestone 没有生命,就没有生活:没有石灰石的生命

セメント製造のごみ利用──石灰石鉱山見学会を終えて

松田法子【HBH同人】

Exploring Waste Utilization in Cement Making in Japan: Observations from a Limestone Mine ExcursionNoriko Matsuda【HBH editor】

水泥生产中废料的利用:石灰石矿参观之后

This article reports on how cement plants in Japan have come to function as large‑scale facilities for accepting and recycling waste, inspired by a visit to Mount Bukō, a limestone quarry site in Saitama Prefecture. Ordinary Portland cement is produced using limestone, clay, silica, iron sources, and gypsum, which are now partially substituted by a wide range of wastes and industrial by‑products, including municipal solid‑waste incineration ash, sewage sludge, and steel slag. In addition, various wastes are utilized as alternative thermal energy sources in cement kilns. This “cement resource‑recycling system” extends the lifespan of final disposal sites and serves as part of a wide‑area municipal waste‑management infrastructure, effectively turning cement plants into major urban waste recycling hubs.

In recent years, large‑scale seismic disasters such as the 2011 Great East Japan Earthquake, the 2016 Kumamoto Earthquake, and the 2024 Noto Peninsula Earthquake have generated vast amounts of disaster waste and contaminated soil, which have been accepted by cement plants as raw materials and fuels since 2011. Currently, roughly 10% of the total volume of reused waste in Japan is directed to cement production, a flow that the cement industry conceptualizes as a “venous‑side resource‑circulation model.”

A key enabling factor for such extensive waste utilization is the geological character of Japanese limestone, which is exceptionally high in purity and rich in calcium carbonate. Because this limestone lacks sufficient amounts of essential oxides derived from silicon (Si), aluminum (Al), and iron (Fe), these components must be supplemented from external sources. By supplying the deficient oxides through wastes and industrial by‑products, Japanese cement manufacturing simultaneously maintains high product quality and advances resource circulation.


[2026.2.28 UPDATE]

セメント工場では、大量のごみを引き取っているらしい

武甲山見学の夜、情報交換会で席が隣り合った武甲鉱業の上川容市氏から、セメント工場がかなりの廃棄物を処理しているという話を聞いた。汚泥、肉骨粉、ゴムマットなど、あらゆる廃棄物だという。武甲山が位置する埼玉県ではごみ焼却炉をもたない自治体も少なからずあって、セメント工場では都市ごみ(家庭や事業所から出る一般廃棄物)やその焼却灰を引き取り、石灰石を焼いてセメントをつくる際の原料にしているという。   その話が気になって、後日、少し調べてみたのがこのレポートである。

セメントをつくるために使われる廃棄物

セメントをつくるには、できあがるセメントの重量とほぼ同量の石灰石が必要になる(本特集石灰石鉱山見学記中の日埜直彦レポート「武甲山に幻視する建築・都市とその量」参照)。その他セメントの原料は、粘土、珪石、鉄原料などで、一般的なセメント(普通ポルトランドセメント)の中間製品であるクリンカーの重量比でいうと、石灰石が約80〜85%、粘土が約10〜15%、珪石(チャートなどシリカ源になるもの)と鉄原料がそれぞれ数%ずつとなる。これらの各原料が、廃棄物や、鉄鋼業で生じるスラグなどの産業副産物によって置き換えられている状況はfig.1のようである。置き換えの対象は、セメントの原材料である石灰石・粘土・珪石・鉄原料の全てにわたる。また、クリンカーをセメント製品とするために混合する石膏も、火力発電所から出る副産物が利用されている。



fig.1──セメント産業における廃棄物・副産物の有効利用について


(一般社団法人セメント協会、2020年、5頁より引用)

  加えてセメントプラントでは、廃棄物が熱エネルギー代替としても用いられている。内訳はfig.2のとおりで、熱量をもつ廃棄物が多く使用されている。数年前には、アジアで輸入規制が始まったため日本国内でだぶついた廃プラスチックの利用量が伸びていたなど、廃棄物をめぐる社会情勢も反映される。



fig.2──セメント製造における廃棄物・副産物の熱エネルギー代替・原料代替の状況、カーボンニュートラルの実現に向けたセメント産業の取り組み


(一般社団法人セメント協会、2025年資料、12頁より引用)

  多種多様な廃棄物や、他産業の製造工程等で発生した副産物が、セメントの製造工程では資源として大量に使用されている。それは業界で「セメント資源化システム」と呼ばれている。   そのシステムを、まず都市ごみから詳しくみてみよう。都市ごみの焼却灰(残さ)は、最終処分場に埋め立てられている。しかしそのスペースは大都市圏を中心になくなりつつある。だからごみの焼却灰がセメント製造にまわされていくことは、最終処分場の延命にもつながっているという。多摩地域では2006年から、25市1町(人口約400万人分)のごみ焼却灰(年間約7万t)がセメント生産に流入している。セメント工場が都市ごみの巨大な再生場になっているとも言えそうなのだ。   ではなぜ廃棄物や副産物をそのようにセメントの材料にできるのかというと、焼却灰などの化学組成は、セメントの原材料のそれと同等だからだという(fig.1参照)。普通ポルトランドセメントの製造においても、廃棄物を原料にすることは当たり前に行われており、例えば太平洋セメントでは、グループ国内工場で使用する廃棄物が、セメント製造量1tあたりに換算して平均400kg以上になるという。   さらには都市ごみ焼却灰をより積極的に主原料とする製品開発もなされている。それはセメント1tあたり500kg以上を使用したエコセメントというもので、強度や耐久性は一般的なセメント(普通ポルトランドセメント)と同等であり、むろん、重金属の溶出等の基準値も全てクリアしている。前述した多摩地域における2006年からのごみ焼却灰利用は、エコセメントの生産に充てられている。 ちなみに太平洋セメント株式会社は1998年にセメント会社3社の合併により創立されたが、その頃はセメントの国内需要がピークアウトしつつある時代だった。よって収益改善策として廃棄物リサイクル事業を本格化したという。つまり廃棄物利用は自社事業の生き残り策のひとつだったわけだが、今や広域な自治体範囲にまたがってごみの最終処分やリサイクルに寄与しているというわけだ★1。

セメント製造と災害廃棄物

2011年以降は、災害廃棄物の受け入れも盛んだという。東日本大震災、熊本地震、能登半島地震など、この間の大規模災害に伴って、さまざまな「生環境」において発生してきた、建物、家屋、什器、家具などといったなどの破損した部材が運び込まれ、セメントの原材料や熱エネルギー代替として使用されてきた[fig.3, 4]。



fig.3──能登半島地震の災害廃棄物(木くず)が新潟県の姫川港で荷揚げされている様子


(一社セメント協会資料、2025年、11頁より引用)

 



fig.4──熊本地震災害廃棄物の受け入れ状況


(一般社団法人セメント協会、2020年、13頁より引用)

  セメントは約1,450℃という高温の焼成工程を経て生産される(なお、陶磁器は約1,100〜1,400℃、電子部品の工業炉では約1,300〜1,400℃、ガラス溶解炉では約1,500〜1,700℃、溶銑とスラグを生成する鉄鋼高炉では約1,500〜1,800℃の焼成温度帯を要し、主要産業のなかでセメント焼成が突出して高いというわけではない)。よって、例えばダイオキシンは熱分解・酸化されて二酸化炭素と水に分解されるなど、元の性質は存在しなくなる。2000年代前半以降は、従来は材料化が困難だった度合いの自然汚染土(ヒ素や鉛によるもの)や、人為的な汚染土も資源処理されるようになっている。   fig.5は、日本全体の物質フローである。ここでは2022年度に発生した5.23億tの廃棄物等のうち、2.26億tが再利用されていることがわかるが、再利用分の約1割はセメント製造に流入している。   セメント業界では、こうした廃棄物の再利用・循環の流れを「静脈系資源循環モデル」と呼び、静脈系のさらなる充実をはかろうとしているようだ。



fig.5──2022年度における日本の物質フロー


(『環境白書 循環型社会白書/生物多様性白書』環境省、2024年度版、152頁より引用)

日本のセメント製造におけるごみ利用と、日本列島の石灰岩・石灰石の特徴との関係

日本のセメント工場でここまで幅広く、かつ多量の廃棄物の資源化(原料化)が行われていることの背景は、日本で採掘される石灰石(産業利用のために採掘された石灰岩)の純度の高さにもあるという。それはどういうことか。   石灰岩の定義は、質量比で炭酸カルシウム(CaCO3)を50%以上含む堆積岩、である。そこにおいて日本列島の石灰岩は、ほぼ純粋に炭酸カルシウムからなる。その理由は、世界各地で多い石灰岩のでき方(大陸棚など、陸地近くの浅い海で形成された石灰質の堆積物が岩石化したもの)とは異なり、日本列島の石灰岩は、遠洋の海山のまわりにできた石灰質の礁がプレートの移動によって運ばれ、後から陸地に付加されたものであるため、泥や砂など陸地由来の混合物が含まれえないからである(詳しくは伊藤孝による本特集号の連載稿「賢治と石灰岩」を参照してほしい)。   陸地由来の粘土やシルトなど陸源砕屑物には、Si(ケイ素)、Al(アルミニム)、Fe(鉄)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)などが含まれている。だから、世界の他(収束型プレート境界以外)の地域の石灰岩では一般的に、炭酸カルシウム以外の成分も多い。   上のような元素は、SiO2(二酸化ケイ素)、Al2O3(酸化アルミニウム)、Fe203(酸化鉄)など、セメントの原料成分になる。つまり、世界の多くの石灰石の成分構成は元々、セメント中間製品であるクリンカーのそれに近い。セメントと同等の成分構成をもつので、セメントストーンと呼ばれる石もあるくらいだ。一方で日本の石灰石は純度が高いため、セメント(クリンカー)の製造工程では化合物の投入が必要になる。それらを現在、廃棄物や他産業の副産物によって補っている。なぜなら、例えば廃棄物焼却灰や下水汚泥の化学組成は、粘土など天然の陸源砕屑物のそれに近いからである。そして日本では、石灰岩・石灰石の元々の純度の高さ(炭酸カルシウムの多さ)を生かした、高品質な製品開発と供給がなされてきた、ということなのだった★2。   近現代日本の土木や建築の分野では、コンクリートの利用が大々的に進んできた。コンクリートとは、絶対容積比で約10%のセメント、約15%の水、約30%の細骨材と約40%の粗骨材、そして約5%の空気を混ぜ合わせてつくられる構造材である。このコンクリートの結合材・固化材となるセメントの製造が、いま新しいフェーズに入っている。一般的な建材の製造において、実はごみが最大限活用されつつあるというこの動向に、引き続き注目したい。   参考資料 •図表の参照元とした全ての資料 •一般社団法人セメント協会ホームページ(https://www.jcassoc.or.jp) •「太平洋セメントレポート」(太平洋セメント株式会社、2025)   注 ★1──なお、武甲鉱業株式会社の上川容市氏によると、1990年代までのセメント工場では粘土原料は別途粘土山を手当てして操業していたこと、また、廃棄物のセメント原料化が進むにつれて、石灰石の品質管理(特に粘土分の混入防止)が厳しくなったとのことであった。 ★2──同上、上川氏によると、近年では採掘の進行によって日本においても石灰石の採石にはかつてほどの好条件は後退しており、石灰石の鉱床に被っている雑岩の除去や、除去された雑岩の堆積処理なども行なっているために、採掘コストや製造コストは上昇傾向とのことである。   まつだ・のりこ 1978年生まれ。建築史、都市史、領域史。京都府立大学生命環境学部環境デザイン学科准教授。著書=『絵はがきの別府』(左右社、2012)、共編著=『危機と都市──Along the Water: Urban natural crises between Italy and Japan』(左右社、2017)など。共著=『変容する都市のゆくえ──複眼の都市論』(文遊社、2020)、『フリースラント──オランダ低地地方の建築・都市・領域』(中央公論美術出版、2020)、石井洋二郎+鈴木順子編『リベラルアーツと芸術』(水声社、2025)など。
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協賛/SUPPORT サントリー文化財団(2020年度)、一般財団法人窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE(2019〜2021年度)、公益財団法人ユニオン造形財団(2022年度〜)
石灰石鉱業協会(第9号)