生環境構築史

編集後記EDITORIAL POSTSCRIPT

藤井一至+青井哲人+日埜直彦+藤原辰史【特集担当】

Kazumichi Fujii+Akihito Aoi+Naohiko Hino+Tatsushi Fujihara【HBH editors】



エコロジーの特集号の企画にあたり、自然科学を研究し、生態学会員である自分が最もエコロジーに詳しいと思い、編集を担当した。ところが、執筆者のあいだにもエコロジー観に違いがあり、この特集号を通しても共通のエコロジーの定義を共有することはできていない。当初、現在の科学技術(たとえば、遺伝子組み換えや編集、火力発電、化学肥料や農薬、原子力発電など)とその抵抗運動(IPCC、SDGsなど)の課題を整理すればいいと甘く考えていたが、その両者にエコロジー思想が存在し、社会情勢や自然環境によって、個々人の立ち位置によって、その評価が大きくブレることを痛感した。それでも、自分がどのエコロジー思想に近いのか、他者のエコロジー思想がどのようなルーツを持つものなのかを整理するための見取り図としての価値はあると思っている。
たとえば、東南アジアでバナナの病原菌が問題となったときに、遺伝子組み換えバナナを作ってプランテーションで大量栽培するのか(エコモダニズム)、アグロフォレストリーを選ぶのか(オルタナティブ)、熱帯雨林の中でバナナを栽培するのか(無)、野生バナナを増やすのか(再野生化)。ここでエコロジー思想自体は社会の解決策になることはなく、ソフトウェアとしての役割を担うにすぎないが、他者がどのソフトウェアを使っているのかを意識することで、エコロジー思想そのもののすみ分け、共存が可能になる可能性を感じた。
(本特集担当:藤井一至)



環境倫理学は、人間と自然環境との関係のありようについて指針を与えようとする学問で、現に存在するヒューマン・エコロジー諸思想の違いについて私たちに俯瞰的な地図を提供してきた。描き出されるのは経済をめぐるイデオロギーの対立、つまりは政治的な分裂状況の地図だ。今回の特集が、それらとは違う地図を描く可能性を示唆できていれば成功だと思う。読者の批評をいただきたい。
エコロジーにイデオロギー性はない、と言いたいのではない。むしろ反対である。人間の地球への働きかけは、煎じ詰めれば地球の物的な組成の一部を作り変えることであり、生環境構築史はそれを視野の中心に置いているのだが、物質を並べ替えるという、ただそれだけのことがどれほど複雑な社会関係を絡み付かせて肥大化するものかを見ることが重要だろう。そして、理論的には対立する思想が、具体的な環境構築の現場においては批評的に新たな関係を結ぶということもまたありうるはずだ。考えてみれば建築はそういう技術で、その意味の建築はどの時代のどの社会にも存在する。
(本特集担当:青井哲人)


未来がどうなるかわからない、ということはいつでも根源的な不安をもたらす。環境問題においてもまたそうで、その不安を乗り越えて現実に向き合うベクトルが現れ、また不安を解消するためのさまざまな模索がある。そしてそのそれぞれが現実の複雑さに投げ出され、その渦のなかで自らの姿を見失う。わけがわからなくなり、こんがらがって、いつのまにか宗派争いじみた行き違いになってしまう。
こうした意味で、未来への根源的な不安に対して反応する人間の姿をいくらか俯瞰的に見てみる特集なのだろう。メジャーな動きの暗黙の前提を確かめ、マイナーな動きのよって立つところに少し身を寄せてみることで、自分の位置を違った角度で捉え直すきっかけになれば幸いだ。
(本特集担当:日埜直彦)


あまりにも多くのことがエコロジーという言葉に包摂されているという点においても、エコロジーを重視するわりにはエコロジカルな思考のあり方が単調になりがちであるという点においても、これまで私は、エコロジーという概念を前面に思考に用いることに躊躇してきた。博士論文のテーマがナチスの有機農業についてだったこともそれと関係している。今回の特集をめぐって、エコロジーと呼ばれている思考方式の分類方法と、豊富かつユニークな具体例を知ることができたおかげで、エコロジーという概念を使いづらくなっている私の不安の原因が少しわかったような気がした。ともに、松嶋健さんの言っていたように、学問のエコロジカル化の努力は怠ってはならないという思いを強くした。
(本特集担当:藤原辰史)


[2022.11.4 UPDATE]

本特集の見立て:生環境構築史とヒューマンエコロジー
Perspective of the Special Issue: Habitat Building History and Human Ecologies
/本集立意:生环境构筑史与人类生态学
青井哲人/Akihito Aoi
エコロジーのはじまりと広がり
Origin and Extent of Ecology
/生态学的起始与发展
藤井一至/Kazumichi Fujii
ブックガイド1:「エコモダニズム」と生環境構築史
Review on Ecomodernism and Habitat Building History
/述要1:“生态现代主义”与生环境构筑史
日埜直彦/Naohiko Hino
ブックガイド2:再野生化(リワイルディング)について
Review on Ecosystem Re-wilding
/述要2:关于再野生化
松田法子/Noriko Matsuda
ブックガイド3:エコロジー思想の中の「無」
Review on “Emptiness” in Ecological Thought and Practice
/述要3:生态学思想中的“无”
藤原辰史/Tatsushi Fujuhara
ブックガイド4:エコロジー思想におけるオルタナティブを求める動き
Review on Quest for Alternatives in Ecological Thought
/述要4:生态学思想所追求的可选择性
藤井一至/Kazumichi Fujii
インタビュー:生物学者からみたエコロジー
Interview with Masaki Hoso: Ecology from the Biologist Viewpoint
/采访:生物学家细将贵眼中的生态学
細将貴+藤井一至+日埜直彦/Masaki Hoso+Kazumichi Fujii+Naohiko Hino
インタビュー:精神とエコロジーをつなぐ
Interview with Takeshi Matsushima: Connecting Mind and Ecology
/采访:精神和生态学间的联系
松嶋健+藤原辰史+日埜直彦+藤井一至+松田法子/Takeshi Matsushima+Tatsushi Fujihara+Naohiko Hino+Kazumichi Fujii+Noriko Matsuda

協賛/SUPPORT サントリー文化財団(2020年度)、一般財団法人窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE(2019〜2021年度)、公益財団法人ユニオン造形財団(2022年度〜)