生環境構築史

第8号  特集:
地球の見方・調べ方──地球を知るためのデータベース How We Investigate and Perceive the Earth — The Whole Earth Database 观察和研究地球的新方法:了解地球的数据库

地球を知るためのデータベース:地質学

アンケート回答:伊藤孝(茨城大学教育学部教授)

Database for Understanding the Earth: Geology, Mineral Deposits, Geoscience EducationTakashi Ito, Professor, Faculty of Education, Ibaraki University

了解地球的数据库:伊藤孝、地质、矿藏、地球科学教育茨城大学教育学部教授

Q1

専門分野において標準的なデータが集約されているデータベースはどこにありますか? ウェブサイトの場合はリンクを記載してください。以後の問いと照合するため各データベースに番号を付けていただけると助かります。とくに他分野から参照しやすいもの、単なるデータの羅列ではない工夫がなされているものがあれば読者にとって有益だと思います。基礎的なデータベース、網羅的なデータベース、異分野から参照しやすいデータベースなど、性格の違うものをいくつか紹介していただければありがたく思います。あわせて簡単な紹介をお願いします。

以下、文字、数字以外のデータの集積の結果得られた図もデータと拡大解釈して回答いたします。

基礎的なデータベース、網羅的なデータベース、異分野から参照しやすいデータベースごとに分けて回答、と求められておりますが、今回挙げるものは、これらの要素をすべて兼ね備えていると思います。

❶国土地理院地理院地図
さまざまな縮尺・階層で地形データを図で表現したもの。地質学における計画立案、現地調査のガイド、調査結果のまとめ、すべての段階で活用可能である。




❷産総研20万分の1日本シームレス地質図
日本全国をつなぎ目なし、同じ基準で表現した電子地質図。地域ごとの地質図幅は通常1/5万スケール、もしくは1/20万スケールで作られるが、それらは一時に同じ基準で作成されたわけではない。岩石・地層は、列島のすべての場所に露出しているわけではなく、また日記の情報のように日付が書かれていないので、どうしてもその時々の地質学的な進歩の度合い、個人の力量などが反映されたものとなってしまう。結果、それらをただ単純に並べたものは、脈絡のないものになってしまう。シームレス地質図は、1/20万スケールで、現在の視点、同じ基準に基づき表現しなおしたもの。もちろん、解釈も反映されているので、不正確な部分も存在している可能性がある、ということを前提に使う必要がある。
そのような留意点はあるものの、地質図を普段使いできるようになった効用ははかりしれない。従来は、産総研の代理店に発注し購入するか、もしくは図書館・地質学教室の資料室などで探しだし、閲覧しなければいけなかったものが、パソコン、タブレット、スマホで全国各地の地質図を閲覧できるようになった。研究面に限らず、旅先でふと見かけた場所、テレビで見た・小説の舞台となった場所の地質情報を瞬時に確認できるなど、普段の生活と地質情報のリンクの垣根が取り払われた効用はきわめて大きい。




❸産総研地質図Navi
上で紹介した地形・地質情報はもちろん、それ以外の地球物理、地球化学、資源、自然災害等々、さまざまな地球科学情報が網羅されているサイト。基本的には、❷「産総研20万分の1日本シームレス地質図」で述べたことの繰り返しになるが、普段の生活とさまざまな地球科学情報の接点を提供しているという意味できわめて有意義なデータベースといえる。❷産総研20万分の1日本シームレス地質図





Q2

ご自身はそのデータベースとどのようにかかわられていますか?

今回紹介したものに関しては、すべて一ユーザーとして利用しております。

Q3

国際的なデータベースとは別に、日本語のデータベースがあれば教えてください。

現在、普段使いしているのは、上で紹介した日本語のもののみです。私の場合、海外の研究動向は研究論文、国際学会などで得ております。

Q4

その専門分野において先端的なデータが蓄積されつつあるプロジェクトがあれば教えてください。複数いただければありがたいです。あわせてそのプロジェクトが検証しようとしている仮説を手短に教えていただければ幸いです。

(上で述べたデータベースとは全く関係ないのですが)興味をもっているものは国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の「IODP(国際深海科学掘削計画)」です。プロジェクトごとに検証しようとしている仮説は異なるので、一言では表現できません。地球科学・地球環境科学の諸問題、といえると思います。





Q5

学際的な研究プロジェクトに参加されることはありますか? ある場合はどんな分野と関わるどんなテーマのものだったでしょうか。基礎的なデータの扱いについて分野の違いを実感することがあった場合はそのことも教えていただければ幸いです。

「学際的」の定義が難しいと思うのですが、質問④で示した「IODP(国際深海科学掘削計画)」は地球科学の諸分野(地質学、地球化学、地球物理学)からなるチームを組みながら進める、という意味では学際的です。ここに挙げた分野に関しては、それぞれの進め方・考え方についてそれぞれ理解しているので、特段、分野の違いを実感することはないように思います。
いわゆる文理融合型の学際的研究プロジェクトに参加したことはありません。HBHのみです。




いとう・たかし
地質学、鉱床学、地学教育。茨城大学教育学部教授。NHK高校講座「地学」講師(2005〜12)。主著=『日本列島はすごい──水・森林・黄金を生んだ大地』(中公新書、2024)。主な共著=『地球全史スーパー年表』(岩波書店、2014)、『海底マンガン鉱床の地球科学』(東大出版会、2015)など。主な論文=「自然災害に対する危機意識と実際の行動──フィリピン・ヴィサヤ地域の場合」(単著、2017)、「青森県深浦地域の新第三系マンガン鉱床から産出した放散虫化石とその意義」(共著、2019)など。



[2024.6.1 UPDATE]

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特集:地球の見方・調べ方──地球を知るためのデータベース


プロットが取り結ぶ古代と現在──千年村候補地プロットの射程
Connecting Ancient and Present: Through Millennium Village Project
剧情贯通古今:千年村候选遗址剧情范围


中谷礼仁
Norihito Nakatani

協賛/SUPPORT サントリー文化財団(2020年度)、一般財団法人窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE(2019〜2021年度)、公益財団法人ユニオン造形財団(2022年度〜)