生環境構築史

第8号  特集:
地球の見方・調べ方──地球を知るためのデータベース How We Investigate and Perceive the Earth — The Whole Earth Database 观察和研究地球的新方法:了解地球的数据库

インタビュー:「地質図Navi」の夢と可能性

インタビュイー:内藤一樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報基盤センター 整備推進室 室長)

Interview: The Vision and Potential of “GeomapNavi”Kazuki Naito, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, The Research Institute of Geology and Geoinformation

访谈:内藤一樹、“地质图导航”的梦想与可能 产业技术综合研究所(AIST)日本地质调查所地质信息基础设施中心主任

「地質図Navi」は日本の国土の地質情報を集約公開しているデータベースだ。その整備運営を担ってきた内藤一樹氏にその成立の経緯と現状について伺った。明治以来国家が蓄積してきた地質調査の成果を公に公開することを基軸とし、それは災害リスクや土地利用の評価に欠かせないきわめて公共性の高い基盤情報だ。だが一方でお話を伺うなかでその制度的な側面とは幾分異なる横顔も見えてくる。

“GeomapNavi” is a database that aggregates and publishes geological information about Japan’s national land. We spoke with Mr. Kazuki Naito, who has been in charge of its development and management, about the background and establishment of the database. Since the Meiji era, the government has taken the initiative in geological surveys, and the public disclosure of these results has been a fundamental mission of the database. This data is crucial for assessing disaster risks and land use, making it highly significant for the public. However, during our conversation, a somewhat different aspect from its institutional nature also came to light.


[2024.6.1 UPDATE]




左上から:日埜直彦、内藤一樹氏、伊藤孝、小阪淳、松田法子




日埜直彦──今日は国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研と記載)で研究員を務められている、内藤一樹さんにお話をうかがいます。内藤さんは、産総研の地質情報を誰もが容易に閲覧できるWebサイト「地質図Navi」(2012年11月の試験公開を経て2013年5月正式公開。https://gbank.gsj.jp/geonavi/)を作成され、現在も運営されています。「地質図Navi」はさまざまな分野で活用されている、非常に信頼のあるデータベースです。こうしたデータベースはどのように制作されたのか、あるいはどんな活用がされているのか。データベースサイトを実際に制作・運用されたご経験を中心として、お話をうかがいたいと思います。


伊藤孝──ほとんど毎日のように地質図Naviを拝見しています。研究に限らず、日常でも、例えば小説に登場する地域の地質を調べることもあります。

松田法子──私も、現在紀伊半島の漁村の集落調査をしていますが、その際にスマホで地質図Naviを使用させていただく機会がたくさんあります。

小阪淳──私は、十数年前から文部科学省が出している「一家に1枚シリーズ」ポスターの「宇宙図」を制作しています。宇宙にまつわる大量のデータを盛り込む中で、私自身もデータの扱い方や見せ方に対して思うところがあり、地質図Naviの制作にも大変関心があります。今日はよろしくお願いします。

産総研と地質図Naviの成り立ち

日埜──まずは内藤さんの所属する産総研や地質情報基盤センターと、地質図Naviの紹介をお願いします。

内藤一樹──まず産総研とは、経済産業省所管の公的研究機関として設置された、独立行政法人(国立研究開発法人)です。この産総研の中には複数の研究領域があり、そのうちの1つの「地質調査総合センター」に僕は所属しています。この地質調査総合センターは、国として行うべき地質情報の整備のための地質調査を行う組織です。それがさらに4つの部門に分かれていて、僕はその中の「地質情報基盤センター」に所属しています。主な仕事内容として、地質調査総合センターが作成した数々の地質情報を利活用に向けて整備し、公開や配信など普及活動を行っています。
その成果物の一つが地質図Naviで、じつは大変歴史の長いプロジェクトから生まれたデータベースです。産総研の前身である「地質調査所」(1882(明治15)年設立)の時代から、100年以上にわたって地質の調査研究をして作成された地質図のストックを、誰もが使えるようなデジタルアーカイブにしたものが地質図Naviです。産総研が独法化する2001年頃から、デジタルアーカイブをつくろうという機運が高まり、制作が始動しました。
現在はGoogle Mapが当たり前になり、スクロールすれば、好きな地域や範囲の地図をさまざまな縮尺でシームレスに表示できますが、当時はまだそんなものはなかった。ウェブ地図といえば、1枚絵が表示され、誌面外の地域へ移動するには、クリックして紙芝居のように次の1枚絵が表示されるといったシステムでした。
僕たちも、当初は紙芝居的な地質図のデジタルアーカイブをつくりました。しかし、2005年にGoogle Mapが開設された際に、僕たちの闘志にも火がついて(笑)。ちょうどその頃までに、20万分の1地質図幅をデジタル編集することで、1つの地質図で日本列島をカバーした「20万分の1日本シームレス地質図」が完成し、2005年よりウェブサイトで公開しました。それによって、誰もが継ぎ目のない日本全土の地質図をパソコンで閲覧できるようになりました。
また研究機関としては、シームレス地質図の元になるオリジナルデータの地質図も提供しなければなりません。そのための整備作業も同時に進めていましたが、そちらはまだ一般公開には至っていませんでした。しかし、その後2011年に東日本大震災が起こり、それがプロジェクトの大きな転換点になります。ご記憶にある方もいるかもしれませんが、震災直後に、被害状況の確認や復興計画に役立つようにと、有志のネットユーザーがさまざまな地図データを作成してTwitter(当時)などで公開する動きがありました。津波の浸水や土砂崩れがあった範囲をプロットしたマップデータが、次々とアップされたわけです。
しかし非常に悔しいことに、最も活躍するべきタイミングにもかかわらず、僕らの地質図はそこにまったく活用されなかったんです。こちらの提供体制が圧倒的に不十分であることがはっきりと露呈しました。そして一刻も早く、産総研として誰もが利用できる地質図を整備する必要性を強く感じました。産総研の建物も震災被害を受けて立入禁止となり、はからずも時間ができてしまったため、自宅でデータの変換やアプリケーションの制作をやり始めたんです。
Google MapにはAPIという、各ユーザーがGoogle Map上に任意のデータを埋め込むことができる仕組みがあります。最初の数ヶ月はこの機能を使用して、僕たちの地質図や活断層の情報をGoogle Mapに重ねながら試作を繰り返し、アプリケーションの方向性を徐々に決めていきました。しかし、せっかく産総研の公式サービスとして進めていくのであれば、Googleに頼らず、オープンソースのソフトウェアだけで揃えるべきではないか、と考え方も変化したんです。そこで、当時流行していたOpenLayersというオープンソースのJavaScriptライブラリを利用して、自分たちの進捗や状況に合わせながら、安全にサービスが継続できる仕組みをつくりました。
そして、開始から約半年をかけて、およそ現在の地質図Naviとほぼ同様の状態まで到達しました。産総研から出版されている地質図類のほとんどが表示できたり、活断層を表示できたりする状態ですね。アプリケーションの形式が整ったところで試験公開をして、2013年に正式公開になりました。
前年の2012年に政府の電子行政オープンデータ戦略が策定されて、産総研の地質図データを無償で公開する根拠になったことは、正式公開を実現する大きな助けになりました。その後は、活断層以外にも地球化学図や鉱床分布データ、重力データなどさまざまなデータをオーバーレイできるよう、機能をどんどん追加し改修し続けながら、現在の形になっています。
もともと、バックエンド側の元データの配信と、地質図Naviのようなブラウザでのビジュアライズは切り分けて考えていました。あくまで産総研はデータを提供する役割に徹する機関であって、その中のサービスの1つである地質図Naviは、いわばデータのショールームとして位置づけられています。


Webサイト「地質図Navi」(https://gbank.gsj.jp/geonavi/)

データの採取から地質図データへの集約まで

日埜──そもそもの地質図のもとになるデータは、どのように集められているのでしょうか。

内藤──産総研では、活断層や火山などさまざまなデータベースがありますが、やはり地質図は別格のメイン商品です。それに絞って話をします。 産総研では長年、国土地理院の5万分の1地形図と同じ図郭を用い、その範囲の地質分布図と解説文を一冊として出版してきました。この5万分の1の地質図幅における四角い図郭1つ(=約23km×19kmの範囲)を作成するには、地質の専門家4人前後のチームで4、5年の時間を要します。


5万分の1地質図幅の図郭


さまざまな技術が進歩したとはいえ、ドローンやロボットが勝手にデータを採集してきてくれるわけではないんです。調査員がザックを背負って現場に入り、山や沢を歩いてハンマーで石を叩いて試料をルーペで観察し、その場で地図上に分布を記録していきます。そして研究所に戻り、記録を突き合わせて解析しながら、地図上にのせていくわけです。解析に使用する顕微鏡や成分分析自体は格段に高精度になりましたが、現場の作業自体は明治の頃からほとんど変わっておらず、省力化しづらい部分でもあります。
大学等の研究の場合はさらに高密度に調査をしますが、それと同レベルの調査をしていては、何年経っても終わりません。そのため、地質図幅の調査では、1枚の図郭全面を埋めるのに適した調査計画を立てて地質図をまとめ上げていきます。このようにつくられているものなので、実際の使用イメージとしては、産総研の俯瞰的な地質図をベースに、目的に合わせたデータを重ねて併用していただくのが良いように思います。

日埜──ちょうど使用イメージのお話がありましたが、地質図Naviを利用しようとサイトを訪れるユーザーは、特定の目的を持った方々が多いと思われます。例えば、防災用のハザードマップの作成、都市レベルや農業をはじめとした産業での土地利用計画といった目的が予想されますが、提供側としては、どのような利用目的を想定されていますか。

内藤──歴史を振り返ると、産総研の地質図はもともと資源開発のための利用を主目的としてきましたが、その後、理学的な研究の流れが強くなっています。どちらかといえば、実際の産業や防災にはあまりリンクせず、地質学的な興味が強かった印象ですね。しかし、学問的な興味や探究のためには、予算が捻出されにくい時代でもある。特に阪神・淡路大震災以降は、基本的に地震の発生率が高いと予想されるエリアを優先的に調査し、活断層などの素性を明らかにしたり、地震防災の観点から大都市域の地下地質を明らかにしたりするなど、目的を持って地質図をつくるようになっています。また最近では、環境問題も地質図制作の目的に付加されつつあり、重力の大きさや軟弱な地層の基底のコンターラインなど、地域に応じて必要と思われるデータが、オーバーレイで追加されています。


「データ表示」タブより重力図を選択して重ねた場合


日埜──こうしたさまざまな地域のデータを、どのようにシームレスに構成し、アウトプットされているのでしょうか。

内藤──一言で地質図と言っても、資源探査用の地図もあれば、火山や地熱、地下水を主眼にしたものなど、目的によって調査内容や完成品のイメージは違ってきます。出版された地質図としての表現はあくまでアウトプットの一例であって、その裏側にはいろいろなデータがあります。国土地理院の地形図と大きく違う点ですが、産総研の地質図には著者の関心領域やキャラクターも滲み出ているため、横並びに処理するのはとても悩ましいです。
そのため、5万分の1地質図幅に関しては、あくまで図郭ごとに、その出版時点での地質学の知見から最良と思われる描き方をしています。というのも、この5万分の1の図郭で日本全国を網羅しようとすると、およそ1100枚の地質図が必要になります。しかしながら、現在の5万分の1地質図幅シリーズの制作を開始した1950年から今までの70年以上をかけて、やっと約750枚がまとまったという進捗なんです。つまり、70年前に出たマップと最新のマップが共存しているし、それが運悪く隣り合っていたとすれば、当然シームレスになるはずはありません。先述のように、1枚をつくるには4人がかりでも4、5年の時間がかかるので、1100枚の図郭の完成は、私が生きている間にはおそらく到達しないでしょう。
こうした制作実情もあって、20万分の1地質図幅という、やや大きいものでまず全国をカバーし、最新の地質学的な解釈で書き直した新しい地質図データを提供しています。このデータは冒頭に紹介した「20万分の1日本シームレス地質図」にも取り込まれます。まだつくられていない地域の5万分の1や、古くてどうしても必要な場所の再調査をすることで、新たな知見を活かして20万分の1地質図幅を改訂しているような状態です。5万分の1で日本全土を密に埋めたいのは山々ですが、現状では難しいため、このような戦略をとっています。

伊藤──20万分の1の地質図をシームレスにつなげる作業は、いつ頃から開始されましたか。また、補足の再調査もされていることにも驚きましたが、産総研以外の研究者の研究を参照して補足するということもあるのでしょうか。

内藤──90年代から、シームレス地質図のプロジェクトは進んでいました。コンピュータ編纂の日本地質図みたいな感じでやっていたようです。また、20万分の1地質図幅を編纂するときには、新しく出版された論文の知見も参照して取り込んでいます。

松田──私は地質図Naviと災害との関係が一番気になっていたので、最初に東日本大震災が契機になったとお聞きして、とても納得しました。地質図Naviを見ていくと、本当に1枚1枚に、ものすごい量の人的作業が費やされていることがわかるし、制作背景をお聞きしてあらためて驚いています。
漁村の集落調査では、他分野の専門家と地質図を一緒に見ることがありますが、人によって地質図から読み取る内容も異なると実感することがあります。この5万分の1の地質図に何を重ねれば自分が知りたいことがわかるか。ここに一定の前提知識とそれを重ねて読める目が必要ですね。

内藤──平面の地質図から3次元的な地質構造を想像するのはやはり難しく、まだそこに専門家的な知識が必要な状態なのが現状です。そのため、一般の方には使いづらく感じられるかもしれません。将来は、本当の意味で、誰でも地質情報の恩恵にあずかれるような仕組みにならないだろうか、ということはいつも考えている点です。

他分野からの要望によるデータベースの変化

日埜──使い方や機能の追加について、思いがけない要望が届いたり、新しい使い方を発見されたりした経験はありますか。

内藤──直接届くものはあまり多くはありません。しかし以前、福岡県で大雨とそれによる土砂災害が広範囲で起きた際に、Twitter(当時)上で「減災にも繋がる情報として、『地質図ナビ』で地区人口(できれば数と密度)を確認できるようにしてください。」という書き込みを見たことがありました。たしかに、谷あいや地盤の弱い地域にどれくらいの人が住んでいるかがわかれば、捜索や救助活動のトリアージに使用できます。「どうして言われるまで気がつかなかったんだろう」と、ハッとさせられました。その後はすぐに、政府の統計データサイト「e-Stat」から国勢調査の統計にアクセスし、人口密度のデータを取り寄せ、表示機能を必死になって4、5日で作成し、地質図Naviの「データ表示」機能内に反映しました。


国土地理院「平成29年7月九州北部豪雨に関する情報」で公開されている被害状況判読図と人口密度データを表示


他にも「鉄道地質」という趣味的な項目があります。ご存知ないかもしれませんが、「ジオ鉄」という、鉄道を通して地質や地形要素を楽しむ分野があるんです。公益財団法人深田地質研究所が普及に努めていて、「地質図Naviにぜひ鉄道路線を載せてほしい」というご依頼がありました。鉄道の路線をただオーバーレイするだけでは芸がないので、実際に電車に乗って路線を進んでいくと、その場所ごとに見える地質が可視化されるような仕様にしてみました。「鉄道地質」は独立したアプリケーションにもなっているので、乗車時にスマホで見ながら利用することもできます。
このように、地質図Naviはもちろん産総研のサービスではあるんですが、僕の裁量で自由に付加させていただいているデータや機能もいくつかあります。


「鉄道地質」で土讃線沿線の地質情報を表示


日埜──私もあらためて地質図Naviをいろいろと見てみましたが、「夜空の明るさマップ」などの機能は、天体観測には嬉しい情報ですよね。

内藤──これも、僕が高校生の頃に星の写真ばかりを撮っていたことを思い出して追加したデータです(笑)。他にも、植生図や国有林土壌図などがあります。他機関のデータは使用許諾などで大変なこともありますが、地質図と重ねることで解析に使えそうなデータは、どんどん取り入れるようにしてきました。


「データ表示」タブにはさまざまなオーバーレイ情報が追加されている


他にも本題ではありませんが、じつは地質図Naviは、見た目にこだわって制作しています。アイコンなども全部自分で制作していますし、ツリーの中の小さなフォルダやプラス印も高解像度に書き換えて、きれいに表示されるようにつくっているんです。地質図の画像も通常の2倍の解像度にしているので、最近の高密度なディスプレイで表示すると質感が全然違います。地質図の検索窓を新設したり、表示地域でオーバーレイボタンを限定できるフィルターを追加したりするなど、データが増えたことに伴って必要となった機能なども追加して、使いやすさにもいろいろこだわっています。

小阪──普通、データベースと聞くと、人間味を排除した客観的な情報をイメージします。しかし先ほど内藤さんからも「著者のキャラクターで地質図の表現は大きく変わる」というお話があったように、この地質図Naviも、内藤さんの情熱が結実したもののように感じられますね。

松田──データベースができる中でも想像以上のコミュニケーションがあって、それが形に結びついているんですね。

内藤──まさにそうです。データを扱う専門家間でのシンポジウムや、オープンデータ分野の集まりに顔を出し、他の研究者のお話を聞いて刺激を受けることもあります。他にも、有用なデータが投げ込まれると、突然火がついて一気に仕事をしてしまうことも(笑)。他分野の方のお話からも、思いがけない発見がありますね。

地質図Naviあるいはデータベースの今後

伊藤──産総研のデータベースということで、何十人かのプロジェクトとして進んでいるものだと勝手に想像していました。かなり小回りが利く運営をされていて、とても驚きました。

内藤──本当に少ない人数で運営をしています。そのため、僕が作業の中で意識しているのは、地質図やそこからつくったデータ、データベースに入っているデータなど、あらゆる元データは、もし今後、産総研や地質図Naviがなくなってしまっても、すべて国会図書館などのアーカイブから再現して使用できるような形式のデータにするということです。かつての地質調査所や、その後産総研が構築してきた地質情報自体は、たとえ組織がなくなっても、未来永劫に使い続けられるようにする必要がある。再利用可能なデータとしてさまざまな場所にアーカイブをまいて、そのデータだけでも今後成り立つように、と考えています。
最初に「地質図Naviは産総研のデータのショールームです」とお話ししたように、地質図Naviはあくまで簡易版のビューアーという位置づけなんです。僕自身は地質図Naviを制作しながら、それと同時に、地質図Naviよりもっと便利なアプリが、誰かの手によって開発されていくことを期待していました。それで、当時からデータのライセンスもクリエイティブ・コモンズ準拠のオープンなもの(現在は政府標準利用規約(第 2.0 版)準拠)で使える形にしていたわけですが、残念ながら、その予想通りにはならなかった。それでいきがかり上、僕がこの10年ぐらい続けてつくっているというのが、正直な感覚なんです。
当初から、同じものを今後10年、20年継続使用するのは不可能だと思ってやってきました。やはりWebアプリはとにかく寿命が短く、ブラウザもしょっちゅうバージョンが変わっていきますから。バックエンド側のサーバーは、管理者側の努力で少しは寿命を伸ばせますが、ユーザーの環境は5年ももたないのが普通です。ブラウザの仕様がガバッと変わって、地質図Naviの中の古いコードがまったく動かなくなる日が、いつか絶対に来ると思うんですね。
ただ反対に、もっと技術が進歩すれば、データが届くときには、AIによるデータ解釈までが終わっていて、人間がビューアーを見て確認する作業が不要になるという時代になるかもしれない。ユーザーは地質図Naviどころか地質図なんて言葉さえも認識する必要がなくて、生活のバックグラウンドにはしっかりと地質の情報が活かされ組み込まれている。そして産総研のような機関がデータをどんどん流していくおかげで、日々の人々の生活を支えるサービスが、何か地質を加味した部分について良くなっていく、というふうになることが望ましいし、いつかそういう時代が来るといいなと思ってます。
やはり地質図Naviは過渡的なものなので、データそのものは自由に機械学習に使ってもらったり、ChatGPTにどんどん吸い取ってもらったりして、新しい評価結果やデータ出力に使ってもらえればと思います。そのため、AIがデータを認識して組み合わせて使っていけるように、地質図自体もベクトルデータにし、説明書もXMLデータに構造化して配信する。そんな形での配信を目指し、現在はそれに注力したデータづくりをやっています。本当に、地質図Naviのような人間向けのビューアーは、そのうちなくなるかもしれませんね。

小阪──内藤さんは、地質図Naviや現在の仕様のデータベースが消えていくことに対して、非常に前向きに捉えておられるんですね。しかし、内藤さんという個人が自分の裁量でやっているからこそ生まれたデータベースの性格や空気感のようなものや、他の研究者や分野とのコラボレーションのような、使い手同士のコミュニケーションの場所のようなものが消えていってしまうことは、やはり悲しく感じます。今日のお話をうかがって、そういうものがどこかに残っていってほしいと感じました。

内藤──今の若い人たちは、自分でデータベースをつくることにはあまり興味がないのだと思います。20年前は産総研の中にも「自分の専門分野のデータベースをつくるぞ」みたいな雰囲気がありました。しかし、Webやクラウド上のツールが大きく進歩したせいでしょうか。自分が編集したデータベースをつくりたい、という人はいなくなってしまったように感じています。アプリの開発自体も、やっぱり今はもう既製品やクラウドサービスがたくさんありますから。
しかし経験上、プログラミングは外注しても思った通りのものが返ってこないんです。何回か痛い目にあって、結局自分でやるのが一番確実だという結論に、僕はたどり着いたんですね。だからこそ、新しい要望や些細な変更にも対応しやすかったということもあります。

日埜──しかし、やはり産総研という組織があるからこそ、これだけのデータの厚みがあるし、それを理解している内藤さんがつくられているからこそのアプリなんだと思うんです。いくら地質図NaviのようなWebブラウザでデータを見られる場所がなくなって、例えばスマホのカメラを向けると、その土地の地質が見えるような、産総研のデータだけを使ったフロントエンドのアプリが登場したとしても、産総研のようなオーソリティが俯瞰的なデータを担保している意義はなくならないのではないかと、私は思いました。
そもそも、地質図の情報をきちんと整備し、基盤情報としてその開示すること自体は国家の使命であり、社会インフラの一種でもあると思います。そのため、産総研がなくなることは考えにくい。仮に、それが違うかたちになったとしても、俯瞰的なデータをちゃんと押さえられる環境をつくらなければいけないはずでしょう。そういうものが、東日本大震災以降、内藤さんのお仕事によっていち早く整備されたことはとても喜ばしく、使わせていただいてる人間の一人として、お礼を申し上げたいです。

内藤──ありがとうございます。僕自身も、産総研がきちんと査読して品質を保証したデータを常に提供し続けていくということが、一番重要だと思っています。使ってもらう場所については、多ければ多いほどいい。
しかし、AIで多種多様なデータを集めて学習して、新しい解釈を作成したときに、元データの出典や根拠のもとがわからなくなってしまっている現在の状況には、危機感も感じます。ChatGPTで出てきた文章はまさにそうで、フェイクデータも多分に入り混じっている。メタデータの中に、産総研なり、信頼性のある出典がきちんと組み込まれたうえで、継承されていかなければいけないと思います。AIだけでなく、データを作成する側もデータを使って読む側も、メタデータの中に出典がないデータを利用して制作されたものに対して「信頼性がないね」と判断するのが当たり前の流儀になるといいなと思っています。産総研が出すデータもきちんと継承してもらえるよう、適切に出典やデータ形式を整えながら配信していこうと思っています。



[2024年2月27日、オンラインにて収録]



ないとう・かずき
国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報基盤センター 整備推進室 室長
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, The Research Institute of Geology and Geoinformation
产业技术综合研究所(AIST)日本地质调查所地质信息基础设施中心主任

1968年静岡県生まれ。地球科学。国立研究開発法人産業技術総合研究所。Linked Open Data (LOD)の技術による活用しやすい地質情報の提供に取り組む。電子国土賞2013特定テーマ賞、日本地質学会表彰(2016)、LODチャレンジ2018最優秀賞受賞。



司会:
日埜直彦(建築家|日埜建築設計事務所)
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参加者(50音順)
伊藤孝(地質学・鉱床学・地学教育|茨城大学)
小阪淳(美術家)
松田法子(建築史・都市史|京都府立大学)
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テキスト作成:
贄川雪(編集者)

インタビュー:「地質図Navi」の夢と可能性
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インタビュイー:内藤一樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報基盤センター 整備推進室 室長)/Kazuki Naito, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, The Research Institute of Geology and Geoinformation/ 产业技术综合研究所(AIST)日本地质调查所地质信息基础设施中心主任
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/访谈:中塚武、数据库的跨学科使用及其实践
インタビュイー:中塚武(名古屋大学大学院環境学研究科教授:同位体地球化学、古気候学)/Takeshi Nakatsuka, Professor of Isotope Geochemistry and Paleoclimatology, Graduate School of Environmental Studies, Nagoya University/名古屋大学研究生院环境学研究科教授:同位素地球化学、古气候学
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地球を知るためのデータベース:造園学
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/了解地球的数据库:石川初、景观设计
アンケート回答:石川初(慶應義塾大学環境情報学部教授)/Hajime Ishikawa, Professor, Faculty of Environment and Information Studies, Keio University/ 庆应义塾大学环境信息学部教授
地球を知るためのデータベース:地質学
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/了解地球的数据库:伊藤孝、地质、矿藏、地球科学教育
アンケート回答:伊藤孝(茨城大学教育学部教授)/Takashi Ito, Professor, Faculty of Education, Ibaraki University/茨城大学教育学部教授
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特集:地球の見方・調べ方──地球を知るためのデータベース


プロットが取り結ぶ古代と現在──千年村候補地プロットの射程
Connecting Ancient and Present: Through Millennium Village Project
剧情贯通古今:千年村候选遗址剧情范围


中谷礼仁
Norihito Nakatani

協賛/SUPPORT サントリー文化財団(2020年度)、一般財団法人窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE(2019〜2021年度)、公益財団法人ユニオン造形財団(2022年度〜)