生環境構築史

フィールド編 第1回

島根県海士町Ama-cho Shimane

撮影=遠藤秀一

概要

報告=贄川雪(編集者)

調査


海士町より生環境構築史同人に島前高校でのレクチャーとフォーラム開催の打診をいただき、本調査と交流が実現した。

期間:2023年6月15日(木)~17日(土)

海士町


隠岐諸島は、島根半島から約60kmの沖合に浮かぶ、約600万年前の火山活動によって形成された約180の島嶼から成る。 その成り立ちを伝える地形や、それによって育まれた生態系の貴重さから、ユネスコ世界ジオパークに認定されている。

4つの有人島のうち、西ノ島、中ノ島、知夫里島の3島は「島前(どうぜん)」、隠岐諸島のなかで最大の有人島が「島後(どうご)」と呼ばれる。歴史的には、後鳥羽上皇や後醍醐天皇が配流されたこと、また江戸時代から明治時代にかけて日本海の海運を支えた北前船の寄港地として栄えたことでも知られる。
今回私たちが訪れた海士町は、このうちの中ノ島にある。面積約33㎢、周囲約89㎞、人口約2,200人の町だ。
湧水や平地に恵まれたおかげで、漁業や畜産業だけにとどまらず、農業も営んできた。
海士町のスローガンは「ないものはない」だ。この言葉には、「生きるために必要なものはすべてここにある」と「余計なものはなくてもよい」という2つの意味が込められ、まさに海士町を象徴している。
その言葉の通り、海士町は島の資源をていねいに扱いながら、官民が協働し地域循環を育てる取り組みを続けてきた。
積極的な行財政改革や特産品開発、高校魅力化プロジェクト(島留学)や移住者の受け入れなど、さまざまな事業が評価され、数多くの表彰を受けている。


滞在記録

撮影=遠藤秀一

島前(どうぜん)高校は、廃校寸前からV字回復し、現在では「島留学」で注目を集めるスーパーグローバルハイスクールである。そのなかの「地域共創科」は、「地域と共に、仲間と共に地域を創る」をスローガンに、探究学習を超えたより実践的・実際的なプロジェクトを構想し取り組む先端的なコース。今回はこの地域共創科2年生の教室を訪ね、生環境構築史の基礎についてレクチャーを行った。また併せて、生徒たちがいま抱いている自然環境や地域社会に対する問題意識や関心について尋ね、対話した。


撮影=贄川雪

生環境構築史編集同人とサポートメンバーに加え、海士町経営補佐官の竹本吉輝氏がパネラーとなり、島民の皆さんとの対話の会を開催した。短期間ながら海士町の土地や歴史に触れて学んだことをもとに、生環境構築史の考え方や各自のフィールドでの方法と思考を紹介する機会となった。当日は約60名の島民のみなさんにご参加いただき、また活発な質問や意見が次々に発せられるなど、有意義な意見交換の場となった。


参加者


生環境構築史編集同人=青井哲人(明治大学)、中谷礼仁(早稲田大学)、日埜直彦(日埜建築設計事務所)、藤原辰史(京都大学人文科学研究所)、松田法子(京都府立大学)
サポートメンバー=遠藤秀一(未分離デザイン研究所/特定非営利活動法人ツバルオーバービュー)、松嶋健(広島大学)
スタッフ=贄川雪(編集者)
Web制作=小さな都市計画、飯尾次郎(スペルプラーツ)

謝辞
• 本調査は海士町の支援を受けて実施しました。
• 竹本吉輝さん(海士町経営補佐官/株式会社トビムシ)、大野佳祐さん(海士町役場・里山里海循環特命担当課課長)、原周右さん(隠岐島前高校魅力化コーディネーター)、田中早由里さん(AMAホールディングス)、松浦道仁宮司(焼火神社)、島前高校の皆さんと生徒さん、海士町役場関係者の皆さん、フォーラム参加者の皆さんなど、滞在での協力と交流の機会をくださったすべての方々に感謝申し上げます。


[2023.10.9 UPDATE]

協賛/SUPPORT サントリー文化財団(2020年度)、一般財団法人窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE(2019〜2021年度)、公益財団法人ユニオン造形財団(2022年度〜)