生環境構築史

フィールド編 第1回

島根県海士町Ama-cho Shimane

フィールド・ノート

海士町とツバルの共通点から浮かび上がる解決策

遠藤秀一(未分離デザイン研究所/特定非営利活動法人ツバルオーバービュー)

ツバル、生環境構築史のコンパクトなサンプル

撮影担当として初めて同人の活動に参加しました。以前、知人から「ないものはない」という海士町のキャッチコピーを聞いた時に、私がNPO法人の代表として長く関わっている南太平洋の島国ツバル、そこに住む人々の価値観に通ずる点があって記憶に残ったものです。


海士町の玄関口である菱浦港
すべて筆者撮影


カルデラの山々が輪形に連なる隠岐島前の海は外洋のうねりの影響がなく穏やかで、鏡のように広がる菱浦港の水面は、まるでツバルのラグーンのように滑らかです。その水面に映り込む山々のシルエットを見ながら、この島の外界に対する結界が薄いことも感じつつ「山のあるツバル」という印象を受けました。


ツバル国首都フナフチ環礁


気候変動の被害に一番脆弱な島国として知られるツバルの歴史は生環境構築史のコンパクトなサンプルです。島の基盤の石灰岩盤は、地殻の沈降によって数千万年かけて構築されたもので、その厚みは1kmに達します。その上にサンゴや貝殻、有孔虫の骨格などが堆積した砂州が、数千年前にこの場所にたどり着いた人間に与えられた生環境でした。

この絶海の孤島に1,000kmの彼方から手製のカヌーで辿り着いた!というだけでも狂人的ですが、彼らはその後も同じ航路を往復し、タロイモやココヤシなどの作物の種、ブタや鶏などの家畜を運び、砂州を人間が住める環境に改変するという難事業を成功させます。

この時代の自給自足の根底にあるのは、生きるために最低限必要なものが手にはいれば幸せ!という価値観です。「ないものはない」というフレーズは、身の回りにあるものだけで満足できる。という意味になります。

このシンプルライフにも構築3が浸潤してきます。キリスト教の伝来により西欧化が始まり、第二次大戦中に首都を占領した米軍から放出された贅沢品の数々は、人々の生活の近代化に弾みをつけました。これと言った資源のないこの国は、資本主義の直接的な搾取対象からは逃れましたが、拝金主義は定着しました。この20年の間に、現金収入を求めて首都に人が集まった結果、生活排水によるラグーンの汚染が進みました。輸入品増加に比例して深刻化する廃棄物、島の端に穴を掘っただけの投棄場が拡大するばかりです。


首都のフォンガファレ島の北端に広がる廃棄物投棄場


同時に気候変動も強度を増しています。1980年頃から海面上昇による地下水の塩害化が始まり、海岸線の浸食、サイクロン・干ばつ被害の増加、その影響で今世紀中には沈んでしまうとまで言われています。原因は中央集権型資本主義の蔓延にあります。搾取と破壊、富の集中による格差の拡大、すべて構築3に内在する有害事象です。ツバルは内外からの資本主義の圧力で沈んでしまうのです。


大潮の満潮時には島の中に海水が湧き出してくる

構築4としての「山のツバル」へ

私はこのシステムから抜け出したいという思いで、2010年に鹿児島の山間部に生活の拠点を移し、食とエネルギーの自給自足の探求施設「山のツバル」を開設しました。ソーラーパネルと薪によるエネルギーの自給、自然農(不耕起・無肥料・無農薬)による米と野菜の自給などを行っています。この暮らしは構築4の実践と言えます。台風などの自然災害に強く、外部からの供給が途絶えても長期間生活することができる、まさに持続可能な暮らしです。そして、この暮らしは私にとってはきわめて新鮮なものです。

このような内容を10分という限られた時間ではありましたが、フォーラムに参加した皆さんに紹介しました。後半の質問コーナーで島の男性から「時代は変わった、自然回帰を求めてもすでにライフスタイルは変わってしまった。新しい試みをするには時すでに遅しの感がある」という意見がありました。


鹿児島県曽於市にある山のツバルの薪小屋(筆者手製)


この写真は山のツバルを象徴する一枚です。新しい技術と古い知恵が一体となってエネルギーの自給を支えています。環境への負担を減らしつつ持続可能な暮らしを構築するには、新旧問わず手に入る技術を使って新しいシステムを編み出すことが肝要です。オフグリッドのソーラーシステムは冷蔵庫やクーラーなど、家中の家電を賄うことができるうえ、晴れた日にはEVも充電できます。


山のツバルの囲炉裏間。築100年を超える立派な構造材が目を引く


山のツバルのリビングスペースです。電気はすべてソーラー。Wi-Fiも飛んでます。iPadで料理指南動画を見ながら、目の前の囲炉裏で鮎を焼き、ついでに薪ストーブでビザも。薪風呂に入った後に満天の星空と共に流し込むビールは格別です。ピンと来た人もいるでしょう。これってグランピングなのです! 古臭いと思われている「自然回帰」は、視点を変えると最新の遊びが日常的に楽しめちゃう贅沢な暮らしに豹変します。海士町に増え続ける空き家を、囲炉裏と薪ストーブがあるグランピングハウスに改装して、そこに住んで自給自足を目指す移住者を募集してみてはいかがでしょう。カルデラの島としては珍しく田んぼがあり、豊富な海産物、牛や馬。食材にも事欠かない環境です。

燃費の悪い大型の4WDに大枚はたいて揃えた道具を載せて、長時間の渋滞の末に辿り着いたキャンプサイトで薪に火をつけ、地産の食材を料理することに情熱を傾ける人がなんと多いことか……全員まとめて海士町に!



えんどう・しゅういち
1966年生まれ。南太平洋の島国ツバルを拠点とする環境活動家。ニューズウイークジャパン「世界が尊敬する日本人100人」に選出されている写真家でもある。特定非営利活動法人 Tuvalu Overview代表理事。2010年にツバル国より任命され同国の環境親善大使を兼務。同年、拠点を鹿児島に移し、食とエネルギーの自給自足に取り組んでいる。

協賛/SUPPORT サントリー文化財団(2020年度)、一般財団法人窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE(2019〜2021年度)、公益財団法人ユニオン造形財団(2022年度〜)