編集後記EDITORIAL POSTSCRIPT
第7号特集担当:松田法子・伊藤孝・日埜直彦【特集担当】
Noriko Matsuda + Takashi Ito + Naohiko Hino【HBH editors】
生環境構築史で重視しているのは、「不断に自己構築を続ける」地球像だが、そのように動的な地球の姿を実証した地球科学の中心理論、プレートテクトニクス論が登場したのは、今からまだ60~70年ほど前のことだった。さらに日本では、受容が遅れた経緯もあったという(泊次郎『プレートテクトニクスの拒絶と受容──戦後日本の地球科学史』[東京大学出版会、2017])。地球科学はますますの進展をみせているが、地球内部の構造やメカニズムにはまだまだわからないことも多い。
本特集で小川勇二郎氏は、「近代科学とそれに伴う技術を利用した実証的な地球科学がグローバルに議論され始めた20世紀になって、地球全体の歴史が、プロセスとメカニズムを伴って議論されてきた」が、「それによってわれわれは自然を正しく理解し対応することができるようになっただろうか。この質問に、完全に肯定的に答えることは難しい」と述べている。
そして、「たとえば、この数十年余りでも世界では予測できなかったほどの大きな自然災害が起きており、また資源は偏り、一部は枯渇し、環境は激変している。生活は豊かになるどころか、課題は続出しており、全体的に見ると地球と人類は大きな曲がり角に来ていることは確かだ。こうした状況のなかで、われわれの地球観をもう一度考え直したい、というのが、本論の趣旨である」と続けている。
この表明に全面的に賛同すると共に、本特集号の寄稿依頼に応えて膨大な研究史を振り返り、まとめ、書き下ろしてくださった執筆者の皆様に、深く感謝申し上げたい。
(本特集担当:松田法子)
われわれはつい巨人の肩に乗っていることを忘れがちになる。物心がついたときには、すでに宇宙から撮影した地球や日本列島の写真・映像が存在していた。学校教育では地図帳を活用した学習が、あたり前のものとして、提供された。そして、理科や地学の時間には、大地のなりたちについても学ぶことができた。曲がりなりにも、自分の生活圏を越えた、まだ見ぬ土地の様子・成り立ちに、思いを馳せる訓練をしてきたことになる。
今回の特集では、そのような飛び道具もない時代の人たちが、どのように地球と向き合い、知識を蓄積し、それら断片的な知識を一つひとつ積み重ね、組み上げていったのか、というところからはじまり、現在の地球観を構築するまでの長い長い道のりを、振り返る絶好の機会となった。
また、本特集のテーマからはずれるが、執筆者の皆様の見識とパワー、なにより圧倒的な筆力に気圧される結果となった。そして、世の中には、課せられた文字数が少なければ少ないほど喜ぶ人間ばかりではない、ということを理解することができた。
大変ご多忙のなか、本特集のためにお時間を割いて頂いたご執筆の皆様に心より感謝したい。
(本特集担当:伊藤孝)
地球を捉えようとする学問は細分化されている。専門分化は学問の成熟と発展の常ではあるが、知りたいのは結局のところ地球だ。そのルーツにあるのはこの世界を知ろうとする世界観の探究であり、私がいる場所はどこか、という根源的な問いであったはずだ。とすれば、細分化されたそれぞれの学問分野は畢竟、その世界のさまざまな断面にほかならない。
特集に集められた記事を俯瞰してみると、ルネサンス以降の科学の発展が目覚ましさが実感されるだろう。もちろんまだわかっていないことは多いが、急速な発展があった、地球の運動があり、生態系的な運動があり、人間の活動がある。生環境構築史のテーマとぴったり重なり合うこの知見の分厚さを引き受けることは容易でないが、しかしそれを無視して展望を開くこともできないだろう。今回の特集はその重みを確かめる意義があり、次回特集はその現在の先端を確かめることになる。
(本特集担当:日埜直彦)
[2023.11.10 UPDATE]
本特集で小川勇二郎氏は、「近代科学とそれに伴う技術を利用した実証的な地球科学がグローバルに議論され始めた20世紀になって、地球全体の歴史が、プロセスとメカニズムを伴って議論されてきた」が、「それによってわれわれは自然を正しく理解し対応することができるようになっただろうか。この質問に、完全に肯定的に答えることは難しい」と述べている。
そして、「たとえば、この数十年余りでも世界では予測できなかったほどの大きな自然災害が起きており、また資源は偏り、一部は枯渇し、環境は激変している。生活は豊かになるどころか、課題は続出しており、全体的に見ると地球と人類は大きな曲がり角に来ていることは確かだ。こうした状況のなかで、われわれの地球観をもう一度考え直したい、というのが、本論の趣旨である」と続けている。
この表明に全面的に賛同すると共に、本特集号の寄稿依頼に応えて膨大な研究史を振り返り、まとめ、書き下ろしてくださった執筆者の皆様に、深く感謝申し上げたい。
(本特集担当:松田法子)
われわれはつい巨人の肩に乗っていることを忘れがちになる。物心がついたときには、すでに宇宙から撮影した地球や日本列島の写真・映像が存在していた。学校教育では地図帳を活用した学習が、あたり前のものとして、提供された。そして、理科や地学の時間には、大地のなりたちについても学ぶことができた。曲がりなりにも、自分の生活圏を越えた、まだ見ぬ土地の様子・成り立ちに、思いを馳せる訓練をしてきたことになる。
今回の特集では、そのような飛び道具もない時代の人たちが、どのように地球と向き合い、知識を蓄積し、それら断片的な知識を一つひとつ積み重ね、組み上げていったのか、というところからはじまり、現在の地球観を構築するまでの長い長い道のりを、振り返る絶好の機会となった。
また、本特集のテーマからはずれるが、執筆者の皆様の見識とパワー、なにより圧倒的な筆力に気圧される結果となった。そして、世の中には、課せられた文字数が少なければ少ないほど喜ぶ人間ばかりではない、ということを理解することができた。
大変ご多忙のなか、本特集のためにお時間を割いて頂いたご執筆の皆様に心より感謝したい。
(本特集担当:伊藤孝)
地球を捉えようとする学問は細分化されている。専門分化は学問の成熟と発展の常ではあるが、知りたいのは結局のところ地球だ。そのルーツにあるのはこの世界を知ろうとする世界観の探究であり、私がいる場所はどこか、という根源的な問いであったはずだ。とすれば、細分化されたそれぞれの学問分野は畢竟、その世界のさまざまな断面にほかならない。
特集に集められた記事を俯瞰してみると、ルネサンス以降の科学の発展が目覚ましさが実感されるだろう。もちろんまだわかっていないことは多いが、急速な発展があった、地球の運動があり、生態系的な運動があり、人間の活動がある。生環境構築史のテーマとぴったり重なり合うこの知見の分厚さを引き受けることは容易でないが、しかしそれを無視して展望を開くこともできないだろう。今回の特集はその重みを確かめる意義があり、次回特集はその現在の先端を確かめることになる。
(本特集担当:日埜直彦)
[2023.11.10 UPDATE]
- デカルトの‘テクトニクス’、キルヒャーの‘ジオシステム’──科学革命期の地球惑星認識
-
Cartesian ‘Tectonics’ and Kircherian ‘Geosystem’: A Vision to Geocosm in the Scientific Revolution
/笛卡尔的“构造学”、基歇尔的“地球系统”:科学革命时代的行星地球认知
山田俊弘/Toshihiro Yamada - 人類は地球表面をどのように理解してきたか
-
History of Geographical Understanding by Human Beings
/人类是如何理解地球表面的
岩田修二/Shuji Iwata - コラム1:先史時代の地球理解
-
Column 1: Geographical Understanding in the Prehistoric Age
/专栏1:史前时代的地球认知
[2023.11.10 UPDATE]
岩田修二/Shuji Iwata - コラム2:地球の形と空間スケール
-
Column 2: External Configuration and Spatial Scale of the Earth
/专栏2:地球的形状和空间尺度
[2023.11.10 UPDATE]
岩田修二/Shuji Iwata - 地質学の進歩から見た現代の地球観
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Modern Views of the Earth Based on the Recent Development of Geological Sciences
/地质学发展下的现代地球观念
小川勇二郎/Yujiro Ogawa - 鉄鋼の生産と科学が生環境に何を及ぼしたか
-
How did Production and Science of Iron and Steel Influence Living Environment?
/钢铁生产和科学对生环境造成了怎样的影响
初山高仁/Takahito Hatsuyama
協賛/SUPPORT サントリー文化財団(2020年度)、一般財団法人窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE(2019〜2021年度)、公益財団法人ユニオン造形財団(2022年度〜)