生環境構築史

編集後記EDITORIAL POSTSCRIPT

藤原辰史+青井哲人【特集担当】

Tatsushi Fujihara+Akihito Aoi【HBH editors】



奈倉有里さんへのインタビューで、このウェブメディアが文章と画像を使って伝えたいことを伝えようとする行為も戦争によって攻撃されることに気付かされた。そして、私たちの表現行為そのものがすでに「戦争」によって攻撃されているかもしれないことも。その戦争とは、現在の戦争というよりは、ずっと私たちの歴史を支配してきた戦争や暴力の大群にほかならない。この特集ではできるかぎり感傷を避け、事実を重視したが、それはしかし、戦争や暴力の大群から私たちの表現が逃げることを意味しない。むしろ逆である。「攻撃されるもの」に目を向けた意図のひとつはここにある。
(本特集担当:藤原辰史)



人類史は構築様式の階梯を上げつつ生環境を地表に押し広げていく歴史だった。その結果として私たちのまわりには、異質な構築様式の産物がまだら模様をなし、あるいは折り重なるようにしてある。しかし、戦時下においてはそれらが攻撃され、破壊される。私たちは多くを放棄して、後退していく。どこへ?──地表の凹凸へ、であろう。構築0(地球)との構築1的(即地的・身体的)な関係の場所へ。今回の特集はおそらくそのことをあぶり出している。
もちろん今日の戦争では工場・病院や地下貯水施設などがそうした極限的で不安定なサンクチュアリに選ばれこともある。しかし、私たちはそれらに対して構築1的にかかわる。地震・津波・放射能災害等が発生した場合についても似たことが起きる。あるいは今日の生環境はあまりにも大きく複雑だから、それが立ち行かなくなるだけで災害的でありうる。身の回りを、そして世界を見渡してチェックしてみよう。私たちは、どんな崩壊や撤退をこれから経験し、そのとき何を失い、どこに残された生存の場所を見出すのか。
3月初旬に行った沖縄取材旅行では吉浜忍先生、秋山道宏先生に貴重なお話をうかがい、図書館・資料館等の職員の方々や地域のボランティアガイド、そして友人たちのお世話になった。残念ながら金門島への久しぶりの訪問はかなわず、金門大学の曾先生にFBとメールを通じて写真提供と専門的な御教示をいただいた。今後のHBHはフィールドから組み上げる活動を増やせるのではないかと期待している。
(本特集担当:青井哲人)


[2023.6.10 UPDATE]

生環境を捉える軍事史の系譜
The Bio-environment of the Battlefield from a Military Historical Perspective
/生環境視角下的軍事史譜系
唐澤靖彦/Yasuhiko Karasawa
戦時下生環境ガイド[1]島──閉ざされた領域で継続する戦争
Guide to the Wartime Environment [1] Island: Sustained Warfare in a Confined Territory
/戰时生環境導覽[1]島──在封闭地区持续的战争
青井哲人/Akihito Aoi
戦時下生環境ガイド[2]穴──沖縄戦とガマ
Guide to the Wartime Environment [2] Caves: The Battle of Okinawa and ‘Gama’(Karst)
/戰时生環境導覽[2]洞穴──沖繩島戰役和石灰岩洞穴
青井哲人/Akihito Aoi
戦時下生環境ガイド[3]崖──ガリポリの崖、クルクキリセの高地
Guide to the Wartime Environment [3] Cliffs of Gallipoli, Hills of Kirk-Kilise
/戰时生環境導覽[3]崖──加里波利的懸崖,克爾克拉雷利的高地
伊藤順二/Junju Ito
戦時下生環境ガイド[4]平原──塹壕と平地、第一次世界大戦を中心に
Guide to the Wartime Environment [4] Trenches and Plains: Focusing on World War I
/戰时生環境導覽[4]戰壕和平地──以第一次世界大戰為中心
藤原辰史/Tatsushi Fujuhara
戦時下生環境ガイド[5]工場──封鎖による生存条件の損害
Guide to the Wartime Environment [5] Factory: Damage to Survival Conditions Due to Blockade
/戰时生環境導覽[5]工廠──封鎖對生存條件的損害
藤原辰史/Tatsushi Fujuhara
論点[1]インタビュー:戦争と性
Issue [1] Interview: War and Gender
/論點[1]採訪──戰爭與性
奈倉有里/Yuri Nagura
論点[2]原爆の遺品が語るもの──石内都『Fromひろしま』からの思考
Issue [2] What A-Bomb Mementos Tell Us: Thoughts from Miyako Ishiuchi’s “From Hiroshima”
/論點[2]講述原子彈的遺物──由石內都的《From廣島》引發的思考
藤原辰史/Tatsushi Fujuhara
論点[3]工兵論
Issue [3] On Military Engineers
/論點[3]工兵論
唐澤靖彦/Yasuhiko Karasawa
文献紹介[1]生環境としての戦場
Bibliography [1] Books on Battlefield as Habitat
/文獻介紹[1]戰場中的生環境
HBH同人/HBH editors
文献紹介[2]軍事をめぐる写真集・図集
Bibliography [2] Photographic Collections and Illustrated Books
/文獻介紹[2]軍事寫真集・圖集
HBH同人/HBH editors
文献紹介[3]戦跡のデザインあるいはキュレーション
Bibliography [3] Design of Battlefield (Museum on Violence)
/文獻介紹[3]關於戰爭遺蹟的設計或策展
HBH同人/HBH editor

協賛/SUPPORT サントリー文化財団(2020年度)、一般財団法人窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE(2019〜2021年度)、公益財団法人ユニオン造形財団(2022年度〜)